新入社員の“これからに”にスパイスを… /新企画連載:随想 鬼平犯科帳[第11回]

*2023年4月20日(木)

新年度がスタートし3週間が過ぎようとしております。
人の異動や組織変更など体制の刷新があったという方も多いのではないでしょうか。
気持ち新たに笑顔でご活躍のことと存じます。

本日は、

  • イマドキ新人の傾向について
  • 石岡慎太郎(JTEX理事長)による池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』をもとにした「鬼平犯科帳随想」
    第11話

ぜひ最後までお読みください。

新入社員の“これからに”にスパイスを…

最近の新入社員は「デジタルネイティブ世代」「Z世代」「コロナ世代」等、様々な呼び方で言われており、時代変化へのスキル・対応力が高いと言われています。

その反面、オンラインの環境に慣れ親しんでしまったからこそ、対人・対面でのコミュニケーションの苦手・不安があり、更には「これぞ正解!」がない問いにネガティブな印象があることを理解しないといけません。

どう対処すべきか迷った時は「自身が新入社員だった時に、どう説明されたら仕事が覚えやすかったか」「ミスをした時、どう言われたら修正しようと思えたか」等、自身が新人だった頃の気持ちに立ち振り返れば良いのですが、ついつい感情が冷静さを失わせてしまう事は気を付けなければなりません。

新入社員の時に、何を、どう思っていたのかを思い出せば、冷静なアドバイスもきっと浮かんでくるはずです。

<イマドキ新人の傾向とは?>

【コスパ・タイパのこだわり】
    効率を求める心理が顕著に表れ、インターネット上の情報をうのみにして「この資格を取れば、できる仕事が増える」と考える学生は一定数おり、コスパ・タイパへの意識が高すぎる・強すぎるあまり、効率的かつ即効性の高いものを求める傾向には注視が必要です。
【強い承認欲求】
    自分を認めてくれるのが当然と考える傾向が強まり、SNSに投稿すると「いいね!」と承認されないと不満になってしまいます。そのため相手に自分を承認するよう求める気持ちが強くなります。人に認められるために頑張りますが、認められないと働く意欲を失いがちになることもあり、承認欲求が満たされないと不満を抱えやすい点には注意が必要です。
【心を開く人の範囲の狭さ】
    自分の本心を話せる人の範囲が狭いのも新入社員の傾向です。
    コミュニケーションは対面よりもSNSを媒介とする方法へと大きく変化し、他人と違う意見を述べると目立ってしまうため、苦手な人や意見の異なる人とのコミュニケーションを避ける傾向があります。仕事をする際には、自分と同じ考えを持つ好きな人とだけ関わるわけにはいきません。
    コミュニケーションを取る経験が少なかった為、相手への接し方に不安を持つようになります。心を開かずに周囲と表面的な接し方のみに終わってしまうのも新入社員の傾向です。
【はっきりした正解を求める】
    SNSに親しんできた為、物事には必ず正解があると思い込む傾向が強いです。インターネットは分からないことをあいまい検索するだけでスピーディーに答えが得られる環境に慣れ親しんでいるので、検索によって得られたものが正解と信じてしまい、それ以上の探求心が…。
    しかし現実社会には明確な答えのないものの方が数多くあります。
    そのため、正解のない不安にかられる可能性がでてきます。
【報連相の苦手意識】
    報告・連絡・相談の「報連相」は社会人としての基本とされていますが、苦手意識を持つ新入社員が増えているようです。他人から自分はどのように思われているかを気にし過ぎてしまい、自発的に相手に働きがけできません。余計な事を言っていないか・間違えたらどうしよう…等々、
    考え過ぎてしまい間違った方向へ進んでしまう可能性もあります。
    逆に検索スキルが高く情報収集力も得意なので、自分に一定の自信を持っている弊害で、相談しないことで周囲の意見を聴く機会が減ってしまい、自身の偏った見解で進めていく可能性がでてきます。
【受け身の傾向】
    自発的に行動するよりも相手からのアクションを待つ傾向があります。
    そのため仕事においても指示されるのを待ってから動くことが多い事も特徴です。人よりも目立たないようにしてきた=頑張って認められた経験値が少ないことも影響しており、周囲を気にし過ぎるあまりに、余計なことをしないよう、言われた範囲だけをこなす傾向がでてきます。
    その場合、先輩や上司の社員は細かく指示を出さなくてはなりません。
    多忙なときには指示を出すにも限界があるうえに、対応し過ぎると新入社員の自発性が育たなくなる可能性がでてきます。

<2023年度新入社員が育った環境>

2023年度の新卒は2000年前後に生まれました。

    【2000年生まれの新入社員】

    2000年…小渕恵三首相が緊急入院し、後継首相とし森喜朗氏が第85代首相として就任しました。
    また、2000年問題と呼ばれる、コンピュータが誤作動する可能性が指摘された問題に対して、企業は急速な対応を求められていました。
    更には、ロシア大統領プーチン氏が初めて就任した年でした。
    明るい話題として、シドニーオリンピックが開催され女子マラソンの高橋尚子選手が金メダルを獲得しました。
    流行語大賞に選ばれた言葉が「すごく楽しい42キロでした!」でした。

    【2006年~2013年 小学校入学】

    2006年…小学校入学の頃、国勢調査に基づいた日本の総人口数が戦後初めて前年を下回り、減少局面に入りました。

    2008年…アメリカ大統領選で史上初のアフリカ系アメリカ人であるバラク・オバマ氏が当選しました。聴衆に繰り返し呼びかけていた「イエス・ウィー・キャン」は有名なフレーズとなりました。

    2011年…我々の生活に欠かせないコミュニケーションツールの1つである「LINE」は(6/23リリース)サービスを開始してわずか1年間で6000万ユーザーを超えました。

    2012年…東京スカイツリーが開業(5/22)し、世界一高いタワーとして、各地から観光客が殺到しました。

    【2013年~2016年 中学校時代】

    2013年…安倍政権経済政策「アベノミクス」が始動し、景気回復ムードが高まりました。
    また、56年ぶり(1964年以降)に夏季オリンピック開催地に「東京」が選ばれ、日本中に歓喜の声があがりました。

    2016年…アメリカ大統領選でトランプ氏が勝利。加えてイギリスがEU離脱を決定するなど、世界的に大きな変化がたくさんある年でした。

    【2016年~2019年 高校時代】

    2016年…SNSやスマートフォンに関連したトレンドが多くみられます。
    8月にはインスタグラムのストーリーズ機能が提供開始されました。
    SNSの使い方が従来の「思い出」を発信する思考から、「日常」を発信する思考に移り変わった瞬間だったと思います。

このようにこれから入社してくる新入社員の時代を遡ると、生まれた瞬間から常にインターネットに囲まれていたことが分かります。
また、2020年にコロナとなり大学時代の半分以上が常にコロナと隣り合わせで、人との付き合いが極端に減りました。

<今の時代に欠かせない感覚とは>

自己肯定感とは、「ありのままの自分の姿を受け入れ、自分に価値があると感じる肯定的な意識」のことを指します。

自己効力感(自分が優れた結果を出すための能力を持っていると感じる意識)とは異なります。

一方で自己肯定感は、例え失敗したとしても自分には人間的な価値があると感じることが特徴で「いい部分も悪い部分も含めて自分である」というポジティブな感情からくるため、他者の評価に一喜一憂せずに、自分なりの尺度を持って行動することが可能となります。

新入社員~若手社員の皆さんに成功体験を積ませて自己肯定感を高め、引き出すテクニックを学べる事が求められるようになりました。



鬼平犯科帳連載について

JTEXメールマガジンでは、石岡慎太郎(JTEX理事長)による池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』をもとにした「随想 鬼平犯科帳」を1話ずつお届けします。
息抜きにご一読いただければ幸いです。

作者の池波正太郎氏は19歳のとき(昭和17年)、小平の国民勤労訓練所(戦後の中央職業訓練所)に入り、萱場製作所で2年間、四尺旋盤を使って飛行機の精密部品を作り、そのとき体で覚えたものつくりの手順で、『鬼平犯科帳』を書いたといいます。
このように、この小説の背景は意外に深く、皆様もこの作品から学ばれる点が多いと思います。



第11回 密告

    昔、鬼平から恩を受けた女性が盗賊に身を落とすが、その恩を返して死んでゆく『密告』(文春文庫11巻)は、人の情けの美しさを感じる物語である。

    「今夜、深川・仙台堀の鎌倉屋へ盗賊が入る」との密告文を読んだ鬼平は、犯行中の兇盗・伏屋の紋蔵一味を捕縛した。翌日調べると、密告者は片足の不自由な女性であったそうで、また、密偵の彦十が「紋蔵は横山小平次に似ている」と言ったことから、鬼平はその女性がお百でないかと思う。

    昔、鬼平が本所・深川で放蕩無頼の生活をしていたとき、深川の茶店にお百という少女が働いていた。継母に嫌われているところが似ていて、鬼平は同情していたが、御家人で美男子の横山小平次という不良がお百を誘惑し、妊娠すると石段から突き落とすなどの暴行を加えた。茶店の主人から相談を受けた鬼平は、横山をこらしめ、23両の慰謝料を取ってやり、これに鬼平の餞別5両を加えた28両を持参金として、郷里・上総で後妻に入る話がまとまった。お百は生まれたばかりの紋蔵を抱いて、不自由な足で深川を去って行ったと、鬼平は後で知らされた。

    しかし、結局お百は、本格の盗賊・笹子の長兵衛の女房になってしまう。そして笹子の死後、紋蔵は堅気にもならず、しだいに畜生ばたらきをするようになったので、お百も共に追われて江戸へ来たのであった。

    鬼平は、密告で危なくなったお百を何としても救いたいと紋蔵に強く訴えたところ、心打たれた紋蔵は、一人逃げた手下が母を殺すかもしれないと思い、その居場所を教える。だが、お百は見張りの手下を毒殺して密告した後、逃亡してきた手下と相討ちで死んでおり、その傍らには、鬼平がお金を出して彦十が買って与えた餞別のさんご玉のかんざしが転がっていた。以下に本文を引く。

    お百は盗賊の仲間に身を落しても、あのときの本所のてつ:鬼平の温情を一日たりとも忘れなかったとみえる。(略)平蔵が治安を守る江戸府内において、畜生ばたらきを我子にさせることだけはなんとしても「やめさせたかったのであろう」と平蔵はいった。お百もおもい悩んだに相違ない。そうしてついに我子を「売った……」のである。(略)

    紋蔵が市中引き回しのうえ死刑となる前夜、鬼平は軍鶏しゃも鍋、熱い酒とめし、みかん3個を与えた。食事が済んだ頃、牢内に現れた鬼平が、あのさんご玉のかんざしを紋蔵の手に渡し、「明日はこのかんざしを抱いて行け」と言うと、紋蔵は素直に「はい」と答えるのであった。

    なお、鬼平はお百に同情していたが、さして親身になったわけではない。お百が深川を去るときも、他所で遊んでいたくらいである。作者は「恩は着せるものではなく、着るものだ」(『男のリズム』中公文庫)といっているが、お百はあの時まさに恩を着たのであり、だからこそ、命にかえて恩を返したのである。それに対して鬼平もまた、考えてみれば立派に恩を返したのである。




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2023年4月20日