人的資本への投資とは?情報開示における今後の動向について

*2022年6月2日(木)

政府は、成長戦略の中核に「人的資本」への投資を位置づけます。企業従業員を投資の対象である「人的資本」として捉え、企業が人的資本に対して適切に投資しているかを投資家が判断できるようにするため、投資家に伝える19項目の指針を6月中に明らかにします。

今回は、既に明らかにされている3年間で4,000億円の教育投資を中心に施策の背景を考えていきます。

ウェルビーイングと経営

世界の投資家は近年、従業員の幸福(Well-being)をめざす経営を重視するようになりました。これは幸福度の高い従業員の創造性、生産性、売り上げが、そうでない従業員より遥かに高いという科学的根拠が示されるようになったことによります。

また、その背景には経済的豊かさや経済的成長を重視するのではなく、心の豊かさや幸福を重視する社会のほうが望ましいという価値観が、コロナ禍を経て急速に高まったことがあります。2021年のダボス会議のテーマも「グレート・リセット」とし、人々の幸福を中心にした経済に考え直すべきだ。」とダボス会議会長が発言しています。

新しい資本主義と「人的資本」

岸田内閣は、「新しい資本主義」において、これまで官の領域とされてきた「社会課題」の解決に民の力を発揮してもらい、社会課題の解決を成長のエンジンへと転換していくとしています。その取り組みが、以下の5分野への投資です。

  • 科学技術・イノベーション
  • スタートアップ
  • グリーントランスフォーメーション(GX)
  • デジタルトランスフォーメーション(DX)

中核には「人的資本」への投資を位置づけ、教育投資を強化する方針を打ち出しています。

人への分配は、「コスト」ではなく、未来への「投資」であり、官と民が共に役割を果たすことで、成長の果実を分配し、消費を喚起することで、次の成長につながる好循環を作り出そうとしています。

人への投資支援策について

政府は、「人への投資」「能力開発」「労働移動」に関する支援策について募集し、その結果を公表しています。

また、英国の経済学者の分析によると、産業内で教育訓練を受けた従業員の割合が1%ポイント増加すると、同じ産業内で労働者一人当たりの労働生産性が0.6%、労働者一人当たりの平均賃金が0.35%上昇する効果があること。

キャリアコンサルティングを行った事業所に対して、その効果について問うたところ、労働者の仕事への意欲が高まった(53%)、自己啓発する労働者が増えた(37%)といった効果を感じている事業所が多いなどの資料などから、既に決めている4000億円の投資を強化するとしています。

それでは、投資内容を見ていきましょう。

(1)企業が従業員に対して実施する訓練経費の助成を行う制度
  • 1.対面を原則としていたが、オンライン研修(eラーニング)も4月から対象とする。オンラインの定額受け放題研修サービス(サブスク)や追加料金を含むオンライン研修も4月から対象とする。
  • 2.企業が従業員に対して実施する訓練経費の助成を行う制度(講座の制限なし)について、事業主の業務命令による訓練のみを助成対象としていたが、労働者が自発的に受講した教育訓練費用を事業主が一部負担する場合に、業務命令がなくても事業主に対して助成する事業を4月から創設する。
  • 3.外部に訓練の実施を委託した場合の個別の訓練カリキュラムの開発費も、4月から対象とする。
  • 4.Off-JTとOJTを組み合わせた長期間の訓練の経費助成率を、IT未経験者を雇用し、IT技術をトレーニングする場合は、45%⇒60%に4月から引き上げる。
  • 5.労働者にデジタル関係の訓練等を実施し、その訓練内容に対応した資格試験を受験させる際に要した資格試験受験料も4月から対象とする。
  • 6.高度なデジタル人材等を育成する場合に、助成率を45%⇒75%に引き上げ、海外を含む大学院への入学では、一人当たりの助成上限額を50万円から大幅に引き上げる。
  • 7.非正規雇用労働者に対する訓練も助成対象である。
(2)その他の支援
  • 1.企業に在籍しながらの学び直しを促進するため、従業員が特別休暇を取得する場合の賃金及び就業規則整備費用を助成する制度について、既に休暇制度導入済みの企業も助成対象とする。また、休暇中の労働者の賃金助成について、人数制限を撤廃する(ただし、1企業当たりの助成上限を年間1500万円と設定。)
  • 2.高齢者・シングルマザーを雇用する事業主に対して助成する制度で、デジタル・グリーンなどの成長分野での雇用の場合、60万円の支給を1.5倍に引き上げる。
  • 3.非正規雇用労働者を正社員化した事業主に助成する制度で、デジタル分野、グリーン分野等の分野について、助成額を66.5万円に4月から引き上げる。
  • 4.海外の主要な大学・大学院のAIの専門実践教育(オンライン講座も含む)は、申請内容を確認したうえで、対象に追加することを令和5年度以降、検討する。
「人への投資」の提案募集の結果と対応方針について 令和4年3月30日  [内閣官房ホームページ]
事業主への助成金  [厚生労働省ホームページ]

有価証券報告書への非財務情報開示の方向について

既に公表されている金融審議会の報告では、以下の内容を有価証券報告書に開示する方針を固めています。

1.全般

  • サステナビリティ情報の「記載欄」を新設
  • 「ガバナンス」と「リスク管理」は、全ての企業が開示
  • 「戦略」と「指標と目標」は、各企業が重要性を判断して開示
2.人的資本

  • 「人材育成方針」「社内環境整備方針」を記載項目に追加
3.多様性

  • 「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」
4.取締役会の機能発揮

  • 「取締役会、指名委員会・報酬委員会の活動状況」の記載欄を追加

講座紹介

グリーントランスフォーメーション(GX)が学べる講座
    SDGs環境問題「3つの対策」〜温暖化・廃棄物・リスク-GOAL9・12・13-

デジタルトランスフォーメーション(DX)が学べる講座
    ゼロからはじめる データサイエンス入門

    AI・RPA導入のための業務フロー作成

多様性ダイバーシティが学べる講座
    SDGsダイバーシティの実践-GOAL5-

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2022年6月2日